証道歌 現代語訳
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永嘉大師 証道歌(ようかたいし しょうどうか)
証道歌とは
唐の時代の禅僧
永嘉 玄覚(ようか げんかく)大師が
作ったとされる漢詩です
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二六七句で 禅の要訣が表現されています
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敦煌文献から発見され文献の中に
証道歌と同じ内容の書物がありますが
その表題は『禅門秘要訣』です
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永嘉玄覚大師(665~713)は
唐の時代の僧侶です
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初めに天台宗を学び
経蔵・律蔵・論蔵の
三蔵を修められました
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好んで 禅に打ち込まれ
その姿を見た人から
当代一の禅僧 曹渓の慧能禅師に
会うことを勧められました
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慧能禅師の元を訪れ
問答を交わすと
驚くことに
その場で印可を受けられました
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そればかりか
慧能禅師は 永嘉玄覚大師を気に入り
一泊していくよう勧めたことから
人々は 永嘉玄覚大師を
「一宿覚(いっしゅくかく)」と
称しました
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永嘉大師 證道歌
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漢文(参照:大正大蔵経)
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読み下し文
現代語 意訳
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00
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君不見
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君見ずや
君は 見たことないか
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絶學無爲間道人
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絶学無為の閑道人
もはや学ぶべきものが絶えた
無為の境地の 間かな道人を
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不除妄想不求眞
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妄想を除かず 真を求めず
妄想を除くこともなく
真理を求めることもない
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無明實性即佛性
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無明の実性 即仏性
執着し妄想が起こる
この現象世界が
そのまま仏の本性である
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幻化空身即法身
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幻化の空身 即法身
幻のように変化する実体の無い身体が
そのまま真理そのものである
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法身覺了無一物
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法身覚了すれば 無一物
真如の理体を悟れば
執着するものが何一つ無い
自由自在の心境に至るだろう
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本源自性天眞佛
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本源自性 天真仏
根源的な存在の本質は
自然そのままの仏である
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五陰浮雲空去來
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五蘊の浮雲は 空去來
人を構成する五つの構成要素は
浮雲のようなもので 空を去来する
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三毒水泡虚出沒
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三毒の水泡は 虛出没
三つの毒(貧瞋痴)は
水泡のようなもので 虚しく出没する
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10
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證實相無入法
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実相を証すれば 人法無し
真実の有様を悟るとき
人も法(真理)も無い
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刹那滅却阿鼻業
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刹那に滅却す 阿鼻の業
無間地獄に堕ちるような悪業も
一瞬のうちに滅するだろう
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若將妄語誑衆生
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若し妄語を將て 衆生を誑さば
もし嘘・偽りで
生きとし生けるものを惑わせば
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自招拔舌塵沙劫
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自ら拔舌を招くこと 塵沙劫ならん
自ら 計り知れない間
舌を抜かれ続ける事態を招くだろう
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頓覺了如來禪
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頓に如来禅を 覚了すれば
ただちに如来禅を悟るなら
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六度萬行體中圓
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六度萬行 体中に円なり
六度万行が体中に満ちて
生活の一部となる
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夢裏明明有六趣
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夢裏明明として六趣有り
夢の世界では
明らかに六道を輪廻する苦の世界がある
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覺後空空無大千
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覚めて後 空空として 大千無し
悟った後の世界は空々としたもので
因果にとらわれる有為の世界は無い
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無罪福無損益
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罪福も無く 損益も無し
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20
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寂滅性中莫問覓
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寂滅性中に 問覓すること莫し
涅槃の境地では
問い求めたりすることが無い
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比來塵鏡未曾磨
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此来の塵鏡 未だ曾て磨さず
未だかつて磨かれることが無かった
塵だらけの鏡を
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今日分明須剖析
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今日 分明に須らく剖析すべし
今日 はっきり見極めがつくように
詳しく調べるといい
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※神秀上座の偈
身是菩提樹 心如明鏡臺
時時勤佛拭 莫使有塵挨
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六祖慧能の偈
菩提本無樹 明鏡亦非台
本来無一物 何処惹塵埃
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誰無念誰無生
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誰か無念 誰か無生
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若實無生無不生
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若し実に 無生なら 不生も無し
喚取機關木人問
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機関木人を喚取して問へ
からくりの木製人形を招いて問うてみろ
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求佛施功早晩成
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仏を求め 功を施さば 早晚成ぜん
仏を求め 功徳を施せば
いつか成道するだろう
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放四大莫把捉
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四大を放って 把捉すること莫れ
万物の構成要素(四大)への執着を放し
捉えようとするな
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寂滅性中隨飮啄
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寂滅性中 隨に飲啄せよ
心安らぐ涅槃の中で
任せるがまま 飲み啄め
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30
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諸行無常一切空
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諸行は無常にして 一切は空なり
因縁によって起こる現象は
常に変化するものであり
全ては空である
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即是如來大圓覺
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即ち是れ 如来の大円覚
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決定説表眞僧
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決定の説は 真僧を表す
(信じて疑いのない)
決定した信念で法を説くことは
真の僧侶であることを表す
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有人不肯任情徴
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人有って肯わずんば 情に任せて徵せよ
承知しない人があれば
情に任せて 明徴せよ
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直截根源佛所印
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直に根源を截るは 仏の印する所
直接、分別や執着の根源を断ち切る事は
仏が印し残した所である
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摘葉尋枝我不能
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葉を摘み 枝を尋ぬるは我れ能はず
葉を摘んだり 枝を求めたりする
些末なことを 私は行わない
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摩尼珠人不識
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摩尼珠 人識らず
不可思議な徳をそなえた宝の珠を
人は識らない
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如來藏裏親收得
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如來藏裏に親しく収得す
仏となる可能性は
(全ての事柄の)裏側に
親しく収まっている
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六般神用空不空
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六般の神用 空にして空ならず
六根が六境を認識する不思議な働きは
空であり 空でない
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一顆圓光色非色
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一顆の円光 色にして色に非ず
小さな一粒の丸い光は
物質であり 物質でない
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40
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淨五眼得五力
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五眼を浄うし 五力を得たり
修行の段階に応じて具わる能力
(五眼)を清め
悪い法を破る力(五力)を得る
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唯證乃知難可測
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唯だ 証して乃ち知る測るべきこと難し
ただ(それらは)
証悟してから知るもので
(悟らなければ)推し測るのは難しい
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鏡裏看形見不難
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鏡裏に形を看る 見ること難からず
鏡の中に映っているものを看るとき
見ることは難しくないが
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水中捉月爭拈得
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水中に月を捉うこと 争でか拈得せん
水の中に映っている月を捉えるときは
どうやって拈み得るというのか
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常獨行常獨歩
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常に独り行き 常に独り歩む
常に独りで行き 常に独りで歩む
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達者同遊涅槃路
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達者同じく涅槃の路に遊ぶ
悟りの境地に達した者は
みな同じ様に
涅槃の路に遊んでいて
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調古神清風自高
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調べ古り 神清うして 風自から高し
格調は古風だが 精神は清らかで
風格には自然な高貴さがある
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貌顇骨剛人不顧
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貌頰け 骨剛うして 人顧みず
容貌は頬がこけていて 骨格は剛く
人から顧みられることがない
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窮釋子口稱貧
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窮釈子 口に貧を称すれど
金銭的に窮している釈迦の弟子は
口では貧しいと称えるが
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實是身貧道不貧
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実に是れ 身貧にして道貧ならず
実にこれ 身なりが貧しくても
歩んでいる道は貧しくない
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50
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貧則身常披縷褐
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貧なれば則ち身常に縷褐を被す
貧しければ
粗末な衣がその身に常に披くだけで
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道則心藏無價珍
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道あれば則ち心に無価の珍を蔵す
道があるから
その心には
価値が測れない珍しい宝が蔵まっている
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無價珍用無盡
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無価の珍は 用うれど盡きること無し
価値が測れないほど珍しい宝は
いくら使っても尽きることが無く
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利物應機終不悋
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物を利して機に応じて終に吝しまず
衆生(物)に利益を与え 機会に応じ
そして 最後まで出し惜しみしない
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三身四智體中圓
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三身四智 体中に円なり
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八解六通心地印
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八解六通 心地に印す
八種の解脱や六つの神通力が
心の本性の中に印されている
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上士一決一切了
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上士は一決して一切了す
徳が備わった優れた人は
一度の決心で一切を悟る
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中下多聞多不信
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中下は多く聞いて多く信ぜず
平凡な人や愚かな人は
多くを聞いて多くを信じない
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但自懷中解垢衣
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但だ自ら懷中に垢衣を解け
ただただ 自らの懐の中の
(宝珠が縫い込まている)
垢がついた衣を解きなさい
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※法華経
衣裏繋珠の譬え
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60
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誰能向外誇精進
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誰か能く外に向かって精進を誇らん
外に向かって精進を誇るなんて
誰が出来るか
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從他謗任他非
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他の謗するに従い 他の非するに任す
他人が誹謗するなら
他人が誹謗するままに任せておく
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把火燒天徒自疲
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火を把って天を焼けば徒に自ら疲れる
火をとって天を焼こうとするように
無駄にその人自身が疲れるだけだ
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我聞恰似飮甘露
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我聞くも恰も甘露を飲むに似たり
私が誹謗を聞くのは
ちょうど甘露を飲むことに似ており
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銷融頓入不思議
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銷融して頓に不思議に入る
(誹謗は)銷し融け
ただちに不可思議の境地に入る
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觀惡言是功徳
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悪言は是れ功德なりと観ずれば
悪言を功徳と観るとき
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此即成吾善知識
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此れ則ち吾が善知識となる
悪言が私を導く師となる
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不因訕謗起寃親
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訕謗に因って怨親を起こさざれば
誹謗されても それに因って
怨み・親しみを起こさなければ
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※大般涅槃経
冤親債主
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何表無生慈忍力
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何ぞ無生慈忍の力を表せん
どうして(わざわざ)
無生や慈忍の力を表現しようか
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70
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宗亦通説亦通
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宗も亦た通じ 説も亦た通じ
宗旨にも通じ 説法にも通じている
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定慧圓明不滯空
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定慧は円明にして空に滞らず
禅定・智慧は円明で
空の境地にも滞らない
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非但我今獨達了
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但だ我れ今独り達了するのみに非ず
ただ私だけ 今 独りで
この境地に達したわけではない
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恒沙諸佛體皆同
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恒沙の諸仏 体は皆 同じ
ガンジス川の砂の数ほど多くの諸仏も
得体は皆 同じである
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師子吼無畏説
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師子吼 無畏の説
獅子が吼えるような熱弁で説かれる
畏れなき説法は
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百獸聞之皆腦裂
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百獣は之を聞いて 皆な脳裂す
(説法を)聞いた多くの獣の
全ての脳を破裂させ
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香象奔波失却威
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香象が奔波するも威を失却す
(発情期に入り)
香気を発しながら暴れまわる象の
その猛威を失わせる
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天龍寂聽生欣悦
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天龍は寂かに聴いて欣悦を生じる
ただし
寂かに聞いていた天界の衆生と竜神は
欣喜し法悦を生じる
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遊江海渉山川
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江海に遊び 山川を渉り
大河や海を気の向くままに遊歩し
山や川を涉った
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80
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尋師訪道爲參禪
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師を尋ね 道を訪うて 参禅を為す
師を尋ね 道を訪ね 参禅した
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自從認得曹谿路
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曹渓の路を 認得して自従り
曹渓大師(六祖慧能)の
禅の路を知ってからは
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了知生死不相關
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生死 相関わらざることを了知す
生死が 深く関与しあっていないと
はっきり理解した
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行亦禪坐亦禪
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行も亦た禅 坐も亦た禅
歩くのも禅 坐るのも禅
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語默動靜體安然
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語黙動静 体安然
語るときも黙るときも
動くときも静寂のときも
その姿は安らかである
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縱遇鋒刀常坦坦
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縦い鋒刀に遭うも 常に坦坦
たとえ刀の切っ先を突きつけられても
通常通りで変わりない
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假饒毒藥也間間
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仮饒 毒薬も也た閑閑
たとえ毒薬を盛られても
また同様に のんびりしている
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我師得見然燈佛
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我が師 然燈仏に見ゆることを得て
私の師(お釈迦様)が 然燈仏に出会えて
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多劫曾爲忍辱仙
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多劫に曾て 忍辱仙と為る
過去に長い期間
あらゆる困苦を耐え忍ぶ
“忍辱仙人”と為り 修行され
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90
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幾迴生幾迴死
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幾回か生じ 幾回か死す
幾回か 生まれ変わり
幾回か 死に変わられた
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生死悠悠無定止
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生死 悠悠とし定止無し
どの生死でも悠々とされ
正定を止めることが無かった
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六度集経・ジャータカなど
(忍辱仙人説話)
暴虐な歌利王は 難癖をつけ
忍辱仙人の四肢や耳・鼻を削がせた
しかし
忍辱仙人は動じなかった
怒らないばかりか
慈悲の心を失わなかった為
目の当たりにした歌利王は 改心した
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自從頓悟了無生
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頓に 無生を悟了して自従り
ふと無生を悟り切った時から
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於諸榮辱何憂喜
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諸の栄辱に於いて 何ぞ憂喜せん
諸々の名誉や恥辱に
憂えたり 喜んだりしなくなり
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入深山住蘭若
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深山に入り 蘭若に住す
深い山に入り
寺(蘭若)に住むようになった
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岑崟幽邃長松下
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岑崟 幽邃たり 長松の下
奥深く静かな場所の
厳しい山の中にある高くそびえた松の下
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優游靜坐野僧家
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優遊静坐す 野僧が家
ゆったりとした心のまま(優游)
静かに坐っている
田舎の僧の家で
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閴寂安居實蕭灑
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闃寂たる安居は 実に瀟灑たり
ひっそりとして寂しい(闃寂)修行は
実に淡白であっさり(蕭灑)したものだが
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覺即了不施功
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覚すれば即ち了す 功を施かざることを
覚れば了解するだろう
ここでは(作為的な)働きが
行われていないことを
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100
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一切有爲法不同
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一切の有為法は 同じからず
因縁によって形作される存在は全て
(絶えず変化するものであり、ずっと)
同じものではない
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住相布施生天福
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住相の布施は 生天の福
(ある局面に)
住まったままで行われる布施は
天界に生まれる為の供物(福)で
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猶如仰箭射虚空
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猶 仰いで 箭の虛空を射るが如し
ちょうど天を仰いで
虚空に矢を射るようなものである
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勢力盡箭還墜
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勢力尽きれば 箭還って墜つ
勢力が尽きれば
矢はひき還して堕ちるように
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招得來生不如意
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来生の不如意を 招得せん
来世で思い通りに行かない事態を
招くだろう
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爭似無爲實相門
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争でか似かん 無為実相の門
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一超直入如來地
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一超 直入 如来地なるに
迷いや不安を一気に超え
如来の境地に直接入るのに
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但得本莫愁末
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但だ本を得て 末を愁うること莫れ
ただ根本を得よ 末端を愁えるな
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如淨琉璃含寶月
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浄瑠璃の宝 月を含むが如し
(根本を得るのは)
浄らかな瑠璃の宝珠に月が映りこむとき
宝珠が月を含むようなものである
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110
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既能解此如意珠
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我は今、此の如意珠を解して
私は今 この如意宝珠のことが解った
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自利利他終不竭
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自利利他 終に竭きず
(宝珠の功徳は無限で)
自利でも利他でも
(功徳は)どこまでも尽きない
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江月照松風吹
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江月照らし 松風吹く
江上に月が照り 松の間を風が吹く
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永夜清宵何所爲
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永夜 清宵 何の所為ぞ
この永い夜の 清らかなる宵の景色は
いったい何が為す所だろう
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佛性戒珠心地印
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仏性の戒珠は心地に印す
清らかな景色の元で
時間と空間を超越し
天地と私を一つに感じる時
霧露雲霞體上衣
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霧露雲霞は体上の衣
霧・露・雲・霞が 体上を被う衣となる
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降龍鉢解虎錫
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降龍の鉢 解虎の錫
降龍の鉢を持ち 解虎の錫をつく
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※據續高僧傳卷十六僧稠傳載
僧稠嘗詣懷州西王屋山修習禪定
聞兩虎交鬥 咆響震巖
乃以錫杖中解 各散而去。
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兩鈷金環鳴歴歴
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両鈷の金環 鳴って歷歷
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不是標形虚事持
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是れ形を標して虛事を持するにあらず
この形を標榜しているのは
虚事の維持ではない
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120
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如來寶杖親蹤跡
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如来の宝杖 親しく蹤跡す
如来の宝杖をついて 身をもって
如来の跡を追うためである
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不求眞不斷妄
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真を求めず 妄を断ぜず
真実を求めることもないし
虚妄を断つこともない
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了知二法空無相
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二法は空にして 無相なることを了知すれば
無相無空無不空
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無相は空も無く 不空も無し
即是如來眞實相
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即ち是れ 如来の真実相
すなわち これが
如来の真実の相である
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心鏡明鑒無礙
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心鏡は 明らかに鑑む 礙なし
心の鏡は 明確に映しだす
(その働きを)礙るものはない
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廓然瑩徹周沙界
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廓然と瑩徹して 沙界に周し
(その働きは)わだかまりなく透き通り
宇宙に散らばる無数の世界の
すみずみまで行き渡る
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萬象森羅影現中
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万象森羅 中に影現する
全ての現象 全ての存在の中に影現する
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一顆圓光非内外
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一顆の円光 内外に非ず
小さな一粒の丸い光に 内も外も無い
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130
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豁達空撥因果
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豁達の空は 因果を撥ねる
虚無主義の空観(豁達の空)は
因果の道理をはねる
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※因果撥無
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莽莽蕩蕩招殃禍
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莽莽 蕩蕩として 殃禍を招く
茂るままに 生えみだれれば
災難を招くだけである
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棄有著空病亦然
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有を棄て 空に著く病も 亦た然り
有を棄てて 空に執着してしまう病も
また同然で
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還如避溺而投火
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還って溺を避け 火に投ずるが如し
それはかえって
溺れるのを避けようとして
火の中に投身するようなものだ
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捨妄心取眞理
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妄心を捨て 真理を取る
妄心を捨て 真理を取る
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取捨之心成巧僞
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取捨の心 巧偽と成る
取捨する心が 巧みな偽りと成る
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學人不了用修行
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学人 了せずして 修行を用う
参学する者が
(この機微を)了解しないまま
修行に心を働かせるのは
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深成認賊將爲子
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深く賊を認め 将に子と為ることを成す
盗賊を深く認め
あたかも子供とするようなものだ
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損法財滅功徳
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法財を損し 功徳を滅するは
莫不由斯心意識
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斯の心意識に 由らずということ莫し
この心citta・意manas・識vijñānaに
執着している事が原因である
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是以禪門了却心
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是を以て禅門は 心を了却す
ここを以て 禅宗の法門は
心の問題に決着をつける
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頓入無生知見力
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頓に無生に入るは 知見の力なり
大丈夫秉慧劍
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大丈夫 慧剣を秉る
立派に精進する者は
智慧の剣を手にとれる
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般若鋒兮金剛焔
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般若の鋒 金剛の焰は
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非但空摧外道心
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但だ外道の心を空け 摧するに非ず
ただ外道の心を空け(妄心を)
破摧してきただけでなく
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早曾落却天魔膽
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早く曾て 天魔の胆を落却す
ずっと昔から
(修行を妨げる)
悪魔の気力・胆力を落とし退けてきた
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震法雷撃法鼓
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法雷を震い 法鼓を擊ち
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布慈雲兮灑甘露
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慈雲を布き 甘露を灑ぐ
慈悲の雲を布き 甘露をそそぐ
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150
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龍象蹴踏潤無邊
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龍象の蹴踏は無辺を潤す
高徳のすぐれた人物(龍象)の歩みは
恵みや利益を 果てなく与え
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三乘五性皆醒悟
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三乗 五性 皆 醒悟す
声聞乗・縁覚乗・菩薩乗の三乗も
仏性が在る者も無い者も(五性各別)
皆、迷いから醒め 悟りを得る
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雪山肥膩更無雜
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雪山の肥膩 更に雜なし
ヒマラヤの香草が生える肥えた場所には
少しも雑草が無く
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純出醍醐我常納
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純ら醒醐を出し 我れ常に納む
純粋な醍醐がつくり出されているが
私は常にそのような仏法を納めている
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一性圓通一切性
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一性 円通す 一切の性
一つの本性は
一切の本性に あまねく通じ
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一法遍含一切法
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一法 遍く含む 一切の法
一つの法は
一切の法を あまねく含んでいる
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一月普現一切水
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一月 普く現ず 一切の水
一つの月が
全ての水面に あまねく現れ
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一切水月一月攝
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一切の水月は 一月に摂す
(水面に映る)全ての月は
一つの月に包摂される
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諸佛法身入我性
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諸仏の法身 我が性に入る
諸仏の真理そのものの本体が
私の本性に入り
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160
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我性同共如來合
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我が性は 如来と合し 同共す
私の本性は
如来と合し 共に同じくする
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一地具足一切地
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一地に具足す 一切の地
一つの境地の中に
一切の境地が備わっている
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非色非心非行業
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色に非ず 心に非ず 行業に非ず
(それは)物質的存在でもなく
心でもなく 行為でもない
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彈指圓成八萬門
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弾指に円成す 八万の門
指を弾く一瞬の間に
八万四千の仏教の全ての教法が
円満に成就し
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刹那滅 却三祇劫
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刹那に滅却す 三祇劫
刹那の一瞬の間に
菩薩が成仏する長い時間(三祇百大劫)が滅する
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一切數句非數句
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一切の数句は 数句に非ず
(世間で知られている)
一切の仏法の言葉は
(この機微を表した)
言葉ではない
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與吾靈覺何交渉
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吾が霊覚と 何ぞ交涉せん
私の霊覚と
どうして関わりを持つというのか
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不可毀不可讃
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毀る可からず 讚む可からず
謗るべきでないし 褒めるべきでもない
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體若虚空勿涯岸
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体は虛空の若くにして 涯岸勿し
(仏性の)実体は
虚空のようなもので
涯や岸がない
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170
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不離當處常湛然
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当処を離れずして 常に湛然
今ここを離れず 常に湛然としている
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覓即知君不可見
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覓むれば即ち知る 君が見る可からざるを
覓めたとき知るだろう
君が(仏性を)見ようとしても
見れないことを
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取不得捨不得
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取ることを得ず 捨てることを得ず
(仏性を)取ることも出来ないし
捨てることも出来ない
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不可得中只麼得
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不可得の中 只麼に得たり
(仏性は)求めても得られない中で
ただ得るものであり
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默時説説時默
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黙す時に説き 説く時に黙す
黙っている時に説かれるもので
説く時には何も説かれていないものだ
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大施門開無壅塞
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大施門開き 壅塞無し
巨大な法施の門は開いている
さえぎるものは無い
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有人問我解何宗
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人有って 我に何の宗を解すると問わば
もし人が居て
私に何の宗教道理を了解しているのかと問えば
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報道摩訶般若力
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報いて道わん 摩訶般若の力
或是或非人不識
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或いは是 或いは非 人識らず
あるときは是とし あるときは非とする
だから 人は認識できない
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180
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逆行順行天莫測
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逆行 順行 天も測ること莫し
逆行したり 順行したりするから
天の神々でも測れない
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吾早曾經多劫修
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吾れ早く曾て 多劫を経て修す
私は 早くから長い期間 修行してきた
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不是等間相誑惑
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是れ等間に相誑惑するにあらず
これは なおざりに
たぶらかし惑わし合うものではない
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建法幢立宗旨
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法幢を建て 宗旨を立す
明明佛勅曹溪是
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明明たる仏勅 曹溪 是れなり
明らかな仏陀の言葉が
六祖慧能の居る曹渓で行われている
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第一迦葉首傳燈
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第一の迦葉 首めて伝灯す
二十八代西天記
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二十八代 西天に記す
その後、二十八代が
西にある天竺で伝わったと
書き記されている
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法東流入此土
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法は東に流れ 此土に入る
仏法は東へ流れ
この国の土地に入り
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菩提達磨爲初祖
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菩提達磨を 初祖と為す
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190
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六代傳衣天下聞
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六代の伝衣 天下に聞こゆ
菩提達磨から六代伝わってきた
伝衣の故事は 天下に聞こえている
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後人得道何窮數
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後人道を得る 何ぞ数を窮めん
この後 道を得る人の数を
どうして調べ尽くせようか
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眞不立 妄本空
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真をも立せず 妄は本より 空なり
真理をも立てない
虚妄はモトより(言うまでもない)
一切は空である
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有無倶遣不空空
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有無 俱に遣れば 不空も空なり
有ると無しとを 倶に遣わせれるなら
空でないものも 空である
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二十空門元不著
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二十の空門 元より著せず
般若経には二十もの空が記されているが
(そんな言葉には)もとより執着しない
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一性如來體自同
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一性 如来の体自ずから同じ
(仏性というのは)一つの本性であるから
如来の有様は
自ずと同じようなものである
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心是根法是塵
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心は是れ根 法は是れ塵
心は
(迷いを起こす原因となる)六根であり
法は
(煩悩を起こす原因となる)六塵である
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兩種猶如鏡上痕
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両種は猶お 鏡上の痕の如し
両つの種は さながら
鏡の上の痕垢のようなもので
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痕垢盡除光始現
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痕垢 除去し盡き 光始めて現る
痕垢が除去し尽きるとき
光が始めて現れ
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200
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心法雙忘性即眞
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心と法 双んで忘れれば 性即ち真なり
心と法を 双つそえて忘れるとき
本性は真実となる
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嗟末法惡時世
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嗟 末法の悪時世
あぁ 末法の悪しき世の中
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衆生福薄難調制
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衆生 福薄くして 調制し難し
衆生は薄幸で
調えたり制限したりすることが難しい
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去聖遠兮邪見深
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聖を去ること遠くして 邪見深し
賢聖の時代は遠く過ぎ去り
道理を無視する誤った考えが深い
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魔強法弱多恐害
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魔強く 法弱くして 恐害多し
魔羅の力は強く 法の力は弱く
恐れや害悪が多い
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聞説如來頓教門
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如来の頓教門を 説くを聞くも
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恨不滅除令瓦碎
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瓦解せしめ 滅除せざるを恨む
(人々の魔や怨害を)瓦解させ
滅除しきれないことを恨む
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作在心殃在身
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作は心に在り 殃は身に在り
作為(の原因)は心にあるが
わざわい(の原因)は身業にある
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不須寃訴更尤人
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寃訴し 更に人を尤むることを須いざれ
うらみを訴えたり
また更に
人をとがめたりする必要はない
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210
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欲得不招無間業
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無間の業を招かざることを 得んと欲せば
無間地獄に落ちる五つの悪業
(五無間業)を招きたくなければ
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莫謗如來正法輪
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如来の正法輪を 謗ること莫れ
如来の説く教え(正法輪)を
謗ってはいけない
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旃檀林無雜樹
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栴檀林に 雑樹無し
欝密森沈師子住
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鬱密 森沈として 獅子のみ住む
密に鬱る森は落ち着いていて
(獅子吼する)求道者だけが住んでいる
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境靜林間獨自遊
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境 静かに 林間かに 独り自ずから遊ぶ
境域は静寂で 林は間靚としている
(求道者は)独り自然に遊び
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走獸飛禽皆遠去
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走獣 飛禽 皆 遠く去る
走りまわる獣や飛びまわる鳥など
(邪魔するもの)は皆 遠くへ去る
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師子兒衆隨後
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獅子の児 衆く後に隨う
獅子の児は
ことごとく(獅子の)後に随い
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三歳便能大哮吼
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三歲にして 便ち能く大いに哮吼す
三歳になると
大きな咆哮が出来るようになる
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若是野干逐法王
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若し是れ野干 法王を逐わば
もし野干が 法王を逐いかけても
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220
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百年妖怪 虚開口
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百年 妖怪も 虛しく口を開かん
百年 妖怪が
ただ虚しく口を開くだけである
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圓頓教勿人情
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円頓の教は 人情勿し
円頓の教えには 私情が無いから
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有疑不決直須爭
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疑いを有し決せずんば 直に須らく争うべし
もし疑いを有し 決着をつけたければ
すぐにでも争議すべきだ
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不是山僧逞人我
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是れ山僧が 人我を逞しゅうするにあらず
これは山寺の僧侶が
我執を逞しくしている訳でない
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修行恐落斷常坑
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修行恐るは 断常の坑に落ちんことを
修行で恐れるのは(誤った考えである)
断見・常見の坑に落ちてしまうことだ
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非不非是不是
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非も非ならず 是も是ならず
(その時々の 心の在り方次第で)
非も非でないし 是も是でない
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差之毫釐失千里
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之に差うこと毫釐もすれば 千里を失す
(この機微に)
ごくわずかでも差異を生じるなら
千里を失う
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是則龍女頓成佛
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是なるときは則ち龍女も 頓に成仏し
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230
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非則善星生陷墜
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非なるときは則ち 善星も生きながら陷墜す
道理にかなっていなければ
善星比丘のように
生きながら無間地獄に落ちる
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吾早年來積學問
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吾れ早年より来た 学問を積み
私は若い時から
学問をきわめようと研鑽を積んできた
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亦曾討疏尋經論
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亦た曾て 疏を討ね 経論を尋ね
また 以前は
経典の注釈書を調べたり
経論を捜し求めたりして
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分別名相不知休
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名相を分別して 休むことを知らず
(数ある仏教聖典の)名や色形を分別し
休むことを知らなかった
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入海算沙徒自困
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海に入って沙を算え 徒らに自ら困す
ただひたすら自分で自身を困窮させ
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却被如來苦訶責
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却って 如来に苦に訶責される
期待と反対に
如来から手厚く訶責されるだけだった
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數他珍寶有何益
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他の珍宝を数えて 何の益か有らん
他人の珍しい宝を数えて
何の利益があるのか と
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從來蹭蹬覺虚行
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従来 蹭蹬として 虚ろに行ずることを覚う
これまでは 不遇で志を得ないまま
中身のない修行をしていたように感じる
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多年枉作風塵客
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多年 枉げて 風塵の客と作る
長い間 道理に反し
こまごまとした雑事の客となっていた
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240
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種性邪錯知解
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種性 邪なれば 錯って知解す
人の素質は怪しいものである
だから錯覚し
知識の力で悟ろうとしてしまい
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不達如來圓頓制
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如来 円頓の制に 達せず
如来の円満頓足な境地まで
達することがない
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二乘精進勿道心
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二乗は 精進にして 道心勿し
声聞と縁覚の二乗は
ひたすら仏道修行にはげむが
他を悟らせようとする心がなく
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外道聰明無智慧
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外道は 聡明にして 智慧なし
仏教以外の教えを信奉する人は
聡明で賢いが
真理を把握する智慧(般若)がない
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亦愚癡亦小騃
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亦たは愚痴 亦たは小騃
また愚痴で愚かで
また凡小で愚かである
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空拳指上生實解
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空拳 指上に 実解を生ず
空虚な拳なのに その指上に
真実の理解を生じたとか
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※大智度論 巻第二十
我坐道場時 智慧不可得 空拳誑
小児 以度於一切
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執指爲月枉施功
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指を執って月と為し 枉げて功を施す
(月を指し示している)
指を月とみなしたり
意図に反する効用を施与し
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根境法中虚掜怪
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根境 法中に虛しく捏怪す
六根や六境(や六識)など
世界を構成する一切の法(三科)の中に
中身のない奇怪なものを捏造する
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不見一法即如來
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一法を見ざれば 即ち如来
永久不変に存在するものを見なければ
それは、まさしく如来であり
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250
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方得名爲觀自在
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方に名づけて 観自在と為すことを得たり
まさに観自在と名付けることが出来る
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了即業障本來空
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了すれば即ち 業障 本来 空なり
(この道理を)了得すれば
悪業に因る障害は
本来の仮りの存在となるが
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未了應須還夙債
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未だ了せざれば 還って須く宿債を償うべし
未だに了得しないというのなら
迷いの世界に還って宿債でも償うといい
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饑逢王膳不能飡
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飢えて王膳に逢えども 喰らうこと能わず
飢えるときに
王様の膳(仏法の例え)に
逢えたとしても
(了得しない者は)
食べることが出来ないだろう
.
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病遇醫王爭得瘥
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病んで医王に遇うとも 争でか瘥ゆることを得ん
病んでいるときに
医者の王様(仏法の例え)に
遇えたとしても
(了得しない者の病が)
どのようにして治るというのか
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在欲行禪知見力
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欲に在って禅を行ずるは 知見の力なり
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火中生蓮終不壞
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火中に生じる蓮は 終に壞せず
(欲望が燃えさかる)
火の中で生じる蓮の花は
ずっと最後まで壊れないだろう
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勇施犯重悟無生
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勇施 重を犯して無生を悟り
勇施比丘は
重ねて罪を犯したが無生の理を悟り
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仏説浄業障経(勇施比丘の話)
過去久遠の昔
衆香世界の無垢光如来の時に
勇施という比丘がいた
その容姿があまりに美しかったため
長者の娘(既婚)が恋慕し病になった
娘の母親は 哀れに思い
勇施比丘を誘惑し密かに通じさせた
娘の夫はコレを知り
勇施比丘を殺そうとした
しかし
勇施比丘は長者の娘と謀って
逆に夫を毒殺した
罪を重ねた勇施比丘は悩み苦しんだ
そこへビジュタラ菩薩が現れ
こう告げた
比丘よ 恐れることなかれ
われ今 力能く汝に無畏を施さん
諸法は鏡像に同じ、亦た水中の月の如し
凡夫愚惑の心、痴恚(ちい)愛を分別す
この偈を聞いた勇施比丘は
深く反省するとともに
無生法忍を悟り たちまち成仏した
その後
宝月如来という仏になられ
今現は
西方の常光国に住まわれているという
.
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早時成佛于今在
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早時に成仏して 今に在り
すぐに成仏され
(宝月如来という仏様になられ)
今は常光国に在るという
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260
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師子吼無畏説
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獅子吼 無畏の説
仏は 獅子が咆哮するように勇ましく
畏れを無くす法を説かれたのに
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深嗟𢢺懂頑皮靼
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深く嗟く 懵懂たる頑皮靼
ぼんやりとしか理解せず
言う事を聞かない仕方ない人が
居ることを 深く嘆く
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秖知犯重障菩提
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祇だ犯重の 菩提の障うることを知るも
罪を重ねて犯すと
悟りの支障になるという
因果説を知っていても
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不見如來開祕訣
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如来の秘訣を 開くを見ず
如来の深遠微妙なる仏法
(大乗仏教の教え)が
開かれているのを見ることがない
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有二比丘犯婬殺
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二比丘有り 淫殺を犯して
昔 二人の比丘が居て
淫戒戒・殺人戒を犯した
.
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波離螢光増罪結
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波離の蛍光 罪結を増す
優婆離尊者は
二人の比丘から相談をうけ
法を説いて聞かせたが
蛍の光のような弱々しいものだった為
罪との結びつきを増やしてしまった
.
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維摩大士頓除疑
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維摩大士 頓に疑いを除く
維摩居士が説き聞かせると
たちまち二人の疑いは取り除かれた
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猶如赫日銷霜雪
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猶お赫日の霜雪を銷かすが如し
それはまるで赤々と燃えるような日光が
霜・雪を溶かすようなものだった
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不思議解脱力
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不思議 解脱の力
不可思議な 解脱の力の
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※維摩経 弟子品
優婆離が見舞いを断る理由
維摩経の別名は『不可思議解脱経』
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270
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妙用恒沙也無極
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妙用 恒沙にして 也た極まり無し
巧妙な作用は
ガンジス川の砂ほど多く
極まりがない
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四事供養敢辭勞
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四事の供養 敢えて労を辞せんや
どうして
三宝に対して行う四種の供養(四事)のその労苦を辞退しようか
.
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萬兩黄金亦銷得
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万両の黃金も 亦た銷を得
(ありがたい仏恩に対して)
万両の黄金も 銷すことが出来る
.
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粉骨 碎身未足酬
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粉骨 砕身も 未だ酬ゆるに足らず
骨を粉にし 身を砕くほど供養しても
まだまだ酬い足りない
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一句了然超百億
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一句 了然として 百億を超える
その一句は 了然と
百億の煩悩妄想を超える
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法中王最高勝
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法中の王 最も高勝たり
法門の中の王
(である不可思議脱の教え)は
この上なく勝れている
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恒沙如來同共證
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恒沙の如来 同じく共に証す
ガンジス川の砂の数ほど多くの如来達も
同じように 共に証明されてきた
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我今解此如意珠
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我れ今 此の如意珠を解す
私は今 この如意宝珠を理解した
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信受之者皆相應
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之を信受する者は 皆 相応す
これを信じて受け入れる者は
皆の心の働きが 互いに結びつくだろう
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280
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了了見無一物
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了了として見る 無一物
悟りえて見る 無の一物
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亦無人亦無佛
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亦た人も無く 亦た仏も無し
(執着すべき)人も無く
(執着すべき)仏も無い
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大千沙界海中漚
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大千 沙界は 海中の漚
三千大千世界も
ガンジス川の沙の数ほど無数の世界も
海中の水の泡のようなもの
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一切聖賢如電拂
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一切の聖賢も 電払の如し
あらゆる聖人賢者が存在したことも
雷が払たれたようなもの
.
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假使鐵輪頂上旋
.
仮使 鉄輪 頂上に旋るも
たとえ
あらゆる物を破戒する熱い鉄の輪を
頭上に旋らされても
.
※大方便佛報恩經
假使熱鐵輪在我頂上旋
終不以此苦退於無上道
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定慧圓明終不失
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定慧 円明にして 終に失せず
禅定も智慧も 欠けずに満ちていて
ずっと最後まで失われる事はない
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日可冷 月可熱
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日は冷かならしむ可く 月は熱からしむ可き
太陽が冷たくなっても
月が熱くなっても
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※大般涅槃經
不可説言如來法 滅寧説阿伽陀藥
而爲毒藥不可説言 如來法滅寧説
月可令熱日可令冷 不可説言如來法滅
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衆魔不能壞眞説
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衆魔 真説を壊すること能わず
もろもろの悪魔が
真理の教えを破壊することは出来ない
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象駕崢嶸謾進途
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象駕 崢嶸として慢に途に進む
誰見螗蜋能拒轍
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誰か見る 螳蜋の能く轍を拒むことを
一体誰が見るというのか
カマキリが(象車の路線を)拒める状況を
.
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大象不遊於兎徑
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大象は 兎径に遊ばず
大きな象が
兎の道で遊ばないように
.
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大悟不拘於小節
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大悟は小節に拘わらず
大悟は 小さな事柄に拘らない
.
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莫將管見謗蒼蒼
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管見を将って 蒼蒼を謗ること莫れ
狭い見識で
蒼蒼たる世界を謗ることの無いように
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未了吾今爲君訣
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未だ了ぜずんば 吾今 君が為に決せん
まだ了解してないというなら
私が今 君の為に決着をつけてあげよう
明石の禅寺 大蔵院
経典 記事一覧
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金剛般若経
般若心経(大本・小本)梵語
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観音経
延命十句観音経
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大悲呪
開甘露門
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消災呪
仏頂尊勝陀羅尼
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坐禅儀
証道歌
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中峰和尚座右の銘
興禅大燈国師遺戒
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白隠禅師坐禅和讃.
雲水和讃
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